現地コラム

COLUMN

イリオモテヤマネコ

2020-10-20 02:16

みなさんこんにちは!

突然ですが、イリオモテヤマネコをご存知ですか?

おそらく、名前くらいは知ってるという反応をされた方が多いのではないでしょうか。

あるいは、西表島に住んでいることや特別天然記念物だということは知っていたり、テレビ番組などでその姿を見たことがあったりするという方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、多くの方がイリオモテヤマネコについて詳しく掘り下げた情報を知っている方は少ないのではないでしょうか。

なぜなら、イリオモテヤマネコは、沖縄県にある西表島にしか生息していない猫ですので、それ以外の土地では基本的にイリオモテヤマネコと深く関わる機会がないからです。

名前と曖昧なイメージだけがそれなりに広く知れ渡っているという微妙な立ち位置のイリオモテヤマネコですが、実は知れば知るほど興味深く、面白く、愛らしい生態をした生き物。

西表島のシンボルとして愛されているイリオモテヤマネコのことを多くの方に知っていただき、関心を持っていただくために、今回はイリオモテヤマネコについてご紹介させていただこうと思います。

 

イリオモテヤマネコとは

イリオモテヤマネコの剥製

では、まず大まかな概要からチェックしていきましょう。

イリオモテヤマネコはネコ科ベンガルヤマネコ属に分類されるベンガルヤマネコの亜種です。

そのため、見た目はヒョウ柄のベンガルネコに少し似ており、都会で見かける野良猫とは若干見た目が異なります。

約24万年前から2万年前の期間にイリオモテヤマネコたちの祖先が大陸から琉球諸島へ渡ってきたとされており、そこから西表島に定住したものが現在の彼らです。

1965年に西表島の南西部にある浮舟集落で発見され、発見地ではそれを記念する石碑を目にすることができます。

しかし、このイリオモテヤマネコたちは年々数を減らしており、現在は絶滅危惧種としての指定を受けてしまっているのです。

その稀少さから特別天然記念物、国内希少野生動植物種に指定されており、現在では西表島の固有種として親しまれています。

西表島の人々がイリオモテヤマネコに向ける視線は温かく、島へ赴けばイリオモテヤマネコのグッズ販売があったり猫飛び出し注意の看板があったりするなど、広く愛されている様子を目にできるでしょう。

現地の方言では「ヤママヤー」や「ヤマピカリャー」、「メーピスカリャー」などという呼称で親しまれています。

 

イリオモテヤマネコの特徴

ヤマネコと呼ばれてはいますが、イリオモテヤマネコの体長は50cm~60cm、体重は3kg~5kgとサイズ自体は一般的な飼い猫とほとんど変わりません。

小さくて丸い耳を有しており、額には縦方向に縞模様があり、目の周りは白く隈取りされたようになっているため目付きが悪く見えます。

体はマンチカンのように胴長短足なのが特徴的です。

目付きが悪くワイルドな面がある一方で、丸くて小さい耳に胴長短足とはギャップを感じるのではないでしょうか。

 

イリオモテヤマネコの生態

どんな生き物にも言えることですが、生態を知るためにはまずその生き物が暮らしている環境を知らなくてはなりません。

イリオモテヤマネコが生息しているのはその名前にも冠されている西表島。

西表島は沖縄県の離島で、沖縄本島よりもさらに400km以上南西にある八重山諸島の島々の一つです。

遥か南方の立地であることから本土とは異なる亜熱帯気候に属していて、年間を通してその気温は非常に温暖。

冬場の平均気温は15℃前後、最高気温は20℃を上回る日が多数と、数値を見れば本土の冬とは比較にならない暖かさであることがわかっていただけるかと思います。

そんな温暖かつ湿りがちな環境が自然環境には多大な好影響を及ぼしており、島の面積のうち9割以上を亜熱帯のジャングルが占めているのが西表島最大の特徴です。

この環境からユネスコによって世界自然遺産の候補地として選ばれているほどで、海に囲まれていることから外来種が環境を乱してしまうリスクも非常に低いものとなっています。

イリオモテヤマネコが生息するための環境として上記の条件は非常にマッチしており、安定した気候は少なからず彼らの生息に影響しているでしょう。

そんなイリオモテヤマネコたちは夜行性であり、日中の時間は基本的にジャングルの木陰や岩穴などで寝ています。

ただし、ジャングルの木陰や岩穴ばかりに常にいるというわけでもなく、行動範囲が広いわけではないのですが、島内の山麓から海岸にかけての低地部分の範囲で広くその姿を見られます。

西表島の低地には河川や沢があり水も豊かのため、飲み水としても利用しているのでしょう。

森

猫といえば魚やネズミのような小さな哺乳類、鳥類などを捕まえて食べているイメージを持たれがちですが、イリオモテヤマネコはイメージする猫たちの食性とは異なります。

雑食性であり、ヘビやカエル、カニ、さらにはコウモリや幼いイノシシ、トカゲ、エビ、コウロギと、とにかく多種多様な生物を餌として食しているのです。

元来、西表島のような小さな離島にはネズミのような小型の哺乳類の数が少数しか生息していないケースが多く、餌の観点ではそれらを餌とする生物が住む環境として適していません。

ヤマネコにとってネズミのような小型哺乳類は安定して捕らえることのできる捕食対象で、それが少ない環境で生き抜くための順応として類まれな雑食性を身に付けたのだろうと言われています。

ただし、この雑食性が原因で、イリオモテヤマネコは体臭が強くなっているそうです。

特別天然記念物であることを度外視しても、人が飼育するには適していないかもしれませんね。

 

また、猫を飼われている方だとご存知かもしれませんが、多くの猫は水を嫌うことで有名です。

しかし一方、イリオモテヤマネコは水に苦手意識がなく、寧ろ泳ぎは大得意な生き物となっています。

川に飛び込んだり潜水したりと縦横無尽に魚などを捕らえる様は、さながら離島の環境に相応しい猫版ターザン。

限られた環境の中でたくましく生き残ったこのサバイバーこそが、彼らイリオモテヤマネコというわけです。

総じて、一般的な猫とはかなり異なる生態の生き物だと言えるでしょう。

 

絶滅危惧種?

イリオモテヤマネコの剥製

そんなターザンばりのたくましさを誇るイリオモテヤマネコですが、上でも少し触れたように絶滅危惧種としての指定を受けてしまっています。

「国内希少野生動植物種」とは日本で生息する種の中で絶滅の恐れがあるものに対し、種の保存を目的として環境省が指定を出すものです。

その国内希少野生動植物種に、1994年にイリオモテヤマネコも指定されました。

イリオモテヤマネコの生息数は年々減少しているといわれており、現在ではなんと約100匹しか残っていないと推定されています。

今後絶滅してしまう可能性がとても高い動物だということが数からもわかりますね。

 

イリオモテヤマネコが減った原因

しかし、何故たくましい生態を誇るイリオモテヤマネコがここまで減少してしまったのでしょうか。

その原因として挙げられるのが下記の4点です。

 

①開発に伴い生息地の減少

森

西表島の自然はユネスコによって世界自然遺産の候補地にされるほど世界的に見ても貴重なもので、島の面積の90%以上が未開拓なままであるほど自然環境が保護されている土地です。

その一方、沖縄県の多くの島がそうであるように、観光業は西表島に住む方々にとって重要な産業となっています。

そのため西表島の観光地化は少しずつ進められており、宿泊施設や商業施設の建造を目的とした開発が進められているのも事実です。

他の土地に比べれば雄大なジャングルが残されている西表島も、道路改修や大規模な農地造成などにより自然を少しずつ失ってきました。

結果としてイリオモテヤマネコが好む森林や海岸沿いの通りなどの舗装が進み、生息地として適さない環境へと少しずつ変化していってしまっているようなのです。

 

②交通事故

現在イリオモテヤマネコの生存数減少の原因として最も深刻に捉えられている問題は交通事故です。

西表島は昔と比べて観光客が増加しており、観光客の多くがレンタカーを移動手段にすることから、観光ハイシーズンの夏場などは交通網にそれなりの混雑が見られます。

そんな観光客とイリオモテヤマネコとの事故が多発するのは夜間です。

西表島の夜は市街地以外にはあまり光源がなく、曇天の日などは土地勘のない観光客にとっては特に視界が利きにくい環境となります。

そしてイリオモテヤマネコの主な活動時間は夜ですので、不意に道路へ飛び出してきてしまったイリオモテヤマネコと誤って接触、といったようなケースでの事故が頻発しているのです。

1978年~2018年の間でイリオモテヤマネコに関する交通事故は83件確認されており、現在の生息数が100匹ほどであることから考えると事故件数が深刻であることがわかります。

また交通事故が多発する原因としてよく挙げられるのが、西表島に唯一通っている幹線道路がイリオモテヤマネコの生息地に近いという点です。

イリオモテヤマネコにとってはこの幹線道路も行動圏内であり、そこを横切っているタイミングで事故に遭遇してしまったという件が多数。

さらにイリオモテヤマネコの発情期である冬季には雄や若いネコたちが活動的になるため、これも幹線道への飛び出しにより事故が多発する原因となっています。

種の保全が危ぶまれる状況に陥っており、環境省や沖縄県によりイリオモテヤマネコの飛び出し注意を促す道路標識や動物用トンネル、ゼブラゾーンの設置などが行われているのが現状です。

イリオモテヤマネコの標識

 

外来生物

西表島の閉ざされた環境には外来生物を寄せ付けないというメリットがありますが、それでも外来生物によるイリオモテヤマネコの死亡例もあります。

イリオモテヤマネコが外来生物に食べられてしまうわけではなく、イリオモテヤマネコがその外来生物を捕食して毒化することにより死亡するケースが多いようです。

そんな外来生物の一つとして挙げられるのがオオヒキガエル。

害虫駆除を目的として石垣島に導入された中南米原産の大型のカエルであり、オオヒキガエルは西表島に分布しています。

オオヒキガエルは高い繁殖能力を持っており、雑食であることから害虫駆除に持ってこいだと考えられて導入されました。

ですが、現状から見ればこれは失策だったと言わざるを得ません。

小動物などを無差別に捕食することから、西表島の生態系を崩してしまう恐れがあるのです。

そんな多くの小動物の捕食者であるオオヒキガエルもイリオモテヤマネコにとっては格好の餌なのですが、このオオヒキガエルは耳腺から毒性の強い液体を分泌します。

人間でも失明してしまったり大量に摂取したりすれば心臓麻痺を起こしてしまうほどの強毒であり、イリオモテヤマネコがこれを捕食すれば死亡してしまう恐れがあります。

大量に分布、定着してしまっている石垣島に比べると西表島に生息するオオヒキガエルの数は少ないのですが、繁殖能力が非常に高いことから定着してしまうのも時間の問題です。

早急の手立てを考える必要がある、というのが現在の状況となっています。

 

④FIV

もう一つ、飼い猫などでも懸念されるFIV(ネコ免疫不全ウイルス感染症)、通称猫エイズによるイリオモテヤマネコの死亡も問題視されています。

FIVは主に感染している猫から喧嘩などをきっかけに噛まれることで唾液を媒介として伝染し、発症してしまえば貧血や腫瘍の発生などの症状を経て数ヵ月ほどで死に至ってしまうのです。

現在の動物医療でもこのFIVに対する有効な治療法はなく、飼い猫であっても対処療法で症状を和らげてあげることしかできないため、野生の個体が罹ってしまえばひとたまりもありません。

実際にFIVでイリオモテヤマネコが死亡した例はありませんが、西表島での飼い猫から検出され死亡した例は報告があります。

野生で暮らしているイリオモテヤマネコたちはワクチンを接種しているわけではないので、飼い猫との接触があればFIVが広まってしまう可能性は十分にあるのです。

今後の感染とその拡大を、十分に危惧しておかなければならない状況と言えます。

 

イリオモテヤマネコが生息地

森

上でもご紹介させていただきましたが、イリオモテヤマネコの生活圏は基本的には森の中。

それに加えて海岸沿いの林や小道、サガリバナなどが生えている湿地林、マングローブ林などの水辺も餌が豊富なことから主要な行動範囲に入ります。

ただし、人間が意図してその姿を見ることは難しいと言えるでしょう。

イリオモテヤマネコたちは基本的に夜行性であり、なおかつ注意深い性格のため森の中を歩いて探して回っても出会えることはほとんどありません。

仮に近くに潜んでいたとしても、耳と鼻がとても優れているため遭遇する前に逃げてしまうでしょう。

無闇に彼らの住居へと踏み込まず、出会うことが出来たらラッキー程度の考えに留めておくのが一番です。

もし遭遇できたとしても、絶滅危惧種となってしまっている彼らの生活を脅かさないよう遠くから観察する程度に留め、触ったり刺激するようなことは決してやらないようしましょう。

下記のリンクにイリオモテヤマネコが観察されるスポットが月別にまとめられています。

観光で訪れてレンタカーに乗る予定がある際は、事前にこのマップに目を通しておくと事故のリスクを減らせるかもしれません。

 

https://iwcc.jp/iriomotecat/map/

 

さいごに

西表島のシンボル、イリオモテヤマネコについてご紹介させていただきました。

強面の顔に似合わず胴長短足となんとも愛らしいフォルムをしているイリオモテヤマネコですが、野生の個体とは接触しないのが一番です。

旅行に訪れてイリオモテヤマネコと会いたいのであれば、古見集落の近くにある西表野生生物保護センターへと訪れましょう。

ここでは病気やケガなどで弱ったイリオモテヤマネコの保護活動などが行われており、施設内で彼らの姿を見ることができたり、もっとたくさんの知識を得たりすることもできます。

しっかりとイリオモテヤマネコのことを知れば、西表島という土地のことを深く知ることにも繋がります。

観光で島を訪れた際は、ぜひイリオモテヤマネコたちのことも気に掛けてみてくださいね。